第6回〜第10回 

第6回 「下塗り編」

05:
「今日は下塗りですか?前回と全然内容が違うんですが・・・」
師匠:
「ぎくっ!まあ、そこはそれ、私の個性ということで。
まずは質問から、これから色を着けたいものを塗装するとき
たとえば赤なら赤をいきなり塗ってないだろうな?」

05:
「ぎくっ!まさか、それじゃいけないっていうんじゃ無いでしょうね。」
師匠:
「その、まさかだ。でも何でもかんでも直接塗りたくってる訳じゃ
無いだろう。金属や木は違うんじゃ無いかな?」

05:
「そういえば、金属に色を付けたいときはそのままだと簡単に
はがれてしまうので、金属用のプライマーを塗装します。
木工の時もとの粉で目止めしてからニスを塗ったりします。」
師匠:
「そうだ、下塗りの主な役割のうち2つがそこにある。
1)ものと上塗のハガレをなくす。
2)下地を整えて上塗のハダをきれいにする。
ということだな。」

05:
「ふーん、でもですね、プラスチックは塗料のハガレもないし
下地もきれいだし、直接上塗を塗っても問題ないんじゃ無いですか。」
師匠:
「そう思いがちだが、大きな落とし穴がある。それはプラスチックの
透明性だ。」

05:
「透明性?それが下塗りとなにか関係が・・」
師匠:
「そう、実感や質感に大きくかかわってくるので覚えておいた方がいい。
プラスチックは樹脂であるという性質上、本来は透明である。
それに顔料を混ぜて色を着けたりしているのだが、色の明るいプラスチックや
厚さの薄いところは透けているのだ。自分の持っているプラスチックを
日に透かしてみるといい。かなり透明度が高いことが解るだろう。」

05:
「ほんと、そうですね」
師匠:
「それに対して金属や木は不透明だ。だから、金属や木で作られた本物を
プラスチックで作ったミニチュアで表現しようとすると実感が無くなって
しまうことがある。」

05:
「そういえば・・・。なにかプラスチックの物は重量感とかがなくて
いかにもプラスチックで軽いといった雰囲気になってしまうことがありますよ。」
師匠:
「これはプラスチックの重量を目で感じているのではなく、
プラスチックの持つ透明感がその物の重量感を阻害しているのだ。」

05:
「そこでそれを消す手法として下塗りを塗るんですね。
そのやり方を教えて下さい!」
師匠:
「おう!といいたいところだが時間切れだ。この続きは次回だ」

05:
「えー、なんかずるいなー。」

(つづく)

第7回 「下塗り編2」

05:
「前回はプラスチックには下塗りが重要というテーマだったですよね。
今回はその手法を教えてくれるんですよね。」
師匠:
「そう、でも今回のやり方は私独自のやり方なので、それぞれ
各自もっといいやり方を持っているかもしれない。ひとつの
参考として考えて欲しい。」

05:
「なーんだ。じゃ聞くのよそ!それじゃ、さよなら・・」
師匠:
「ちょっ、ちょっと!そんな・・」

05:
「なーんて、結構弱気ですね。でも役立つように教えて下さい。」
師匠:
「うーん、なんか立場が逆転しているような気もするが・・・
まあいい、その前に下地処理は上にかける色にもよるので上塗をどんな色に
するか考えておくことが重要だ。」

05:
「?それはまた何故?」
師匠:
「上塗の発色という点から考えると、必ず下に来なければならない
明度というのがあるのだ。主なものとして、彩度・明度共に高い赤と黄色は
下地を確実に明度を上げておかないと発色が濁る。すなわち、これらの
下地には白を使うのが有効なのだ。」

05:
「黒い下地に黄色なんか塗っても透けて困ることが多かったです。
白い下地ならきれいに発色させることができそうですね。」
師匠:
「そのためには、白いプライマー(下塗)を塗装しておくと良い。
通常の白でもかまわないが、こちらはインペイ力(下地をかくす能力)が
少ないので使い勝手が劣る。」

05:
「ほかの色では、どんな下地色がいいのですか?」
師匠:
「通常、下塗りはやや明るいグレーを基調としているものが多いな。
市販されているプライマーもこの手の色が多い。ほとんどの
色域に対応可能だ。またグレーは下地インペイ性が高く
素材の違いとかをカバーしやすいといった点やキズが
発見しやすいなどの点も見逃せない。プラスチックの透明感も
かなり消すことができる。」

05:
「グレーを下地として使えば、プラスチックの透明感はある程度消せる・・。
ちょっと待って下さい!、じゃあ、下地を白で塗ったら、
先回あったプラスチックの透明感は消せないのでは無いですか?
そしたら、黄色とか赤とかの場合、透明感が消えてないんじゃ無いですか!」
師匠:
「ぎくっ、そこに気付いたか〜。って、もう一回引き延ばしだ。」

05:
「えー、さらにずるーい!」

(つづく)

第8回 「下塗り編3」

05:
「2回連続でいいところで終わってしまって、今回はそうはいきませんよ!」
師匠:
「いやー申し訳ない、ついついやってしまった。でも今回で下塗り編は
終わろうと思っているぞ。」

05:
「先回は白い下塗りを使用するとプラスチック独自の透明感が
なくならないじゃないですか、って所で終わってましたよ。」
師匠:
「そうだった、そうだった。ここからは私がふだんやっている
方法なので他の人はもっと違う方法かもしれないぞ、その点だけを
注意してくれ。」

05:
「解りました、それじゃ師匠の方法とは?」
師匠:
「私は透明感の高いプラスチックの場合、まずは黒かそれに近い塗装してしまう。
黒は最も透明感の無い塗料だからな。そして、その上に更に
グレーや白のプライマーを塗装する。それから上塗に取りかかるのだ。」

05:
「それじゃ、塗膜がめちゃくちゃ厚くなって実感がなくなるんじゃ無いですか。」
師匠:
「この工程はエアブラシ(注1)を使うと簡単に実現できる工程なのだ。
もしも塗膜が厚くなりそうな場合には光で透けるような所、特にプラスチックが
薄いようなエッジ部分だけを黒く塗ることもある。」

05:
「エアブラシがないと難しいんですね、はあ〜、
エアブラシみたいに高価なもの簡単に買えないし、使い方も難しそうだし・・」
師匠:
「手っ取り早い方法としてはカンスプレーを使う方法もあるが、やはり
塗膜が厚くなりがちだ。細かい模様(モールド)を持つものなんかは
つぶれるおそれがあって難しいかもしれないな。
もし張り合わせるようなもので表と裏があるようなものならば
裏から黒を塗装すると言う手もある。」

05:
「カンスプレーならできそうだな。でも、上塗が黒に近いような明度の
場合はあまり必要ないんでしょう?」
師匠:
「そう、そういうところは臨機応変に対応するのがベストだ。
無責任な様だが、私とて試行錯誤の点もあるのだ。
自分がどのような表現をしたいのかによって、
上塗の色だけではなく下塗りも変える必要があると思う。」

05:
「そういえば、一度塗装した所とプラスチックそのままの所に
同じ色をかけたのに下地の感じが異なって質感が違ったことがありました!」
師匠:
「そう、下塗りを塗った後、そのままにしておくのが良いのか、あるいは
サンドペーパーできれいに下地処理した方がいいのか、などはこの典型で
何を表現したいのかで処理が大きく変わってくるだろう。」

05:
「結構、下塗りもいい加減にできないんですねぇ」
師匠:
「そのとおり!下塗りといって侮ることなかれ!だ」

(つづく)


注1:エアブラシとは
   美術関係でよく使う超小型ハンドスプレーと考えると良い。
  ハンズなどでも販売している。超微細なボカシ線からある程度の
  大きさの面の塗装に適する塗装機器。市販の缶スプレーでは飛沫粒子の
  大きさや塗装範囲など自由が利かないがエアブラシならかなりの
  自由度がある。(当然だが色も変えられる)
  ボカシのためだけだと考えられそうだがそんなことはなく、
  小物の塗装には最適である。
   よく筆塗りと比較する人もいるが、私は筆塗りとは表現方法が
  違うと考えており、どちらに優劣があるとは言えないと思っている。
  ただ、私がエアブラシを勧める理由は、高価で難しいと思われる
  エアブラシが実は筆塗りよりも初心者むけであること、
  そして使い方次第ではかなりの表現力を持つことからである。
  何より塗装の基本−薄く、何層も塗ること−に最も適した
  機器であるからだ。
  (もちろん、筆塗りも根気と熟練によってすばらしい表現力を持つ。)


第9回 「プラスチック塗装編1」

05:
「とうとう、プラスチック塗装ですか?
・・・DHではあんまりプラスチックに塗装することないんじゃないですか」
師匠:
「うぐっ!・・痛いところをつくな。まあそういうな。
一応、樹脂系には応用できるのだからな。樹脂粘土とかにも役立つかもしれん。」

05:
「樹脂粘土とかさわったことないくせに・・」
師匠:
「なんだ!今日は!最初からえらい強気だな、
そんなこと言うとすねちゃうから。イジイジ・・・」

05:
「まあ、まあ・・。いじけないで話を進めましょうよ」
師匠:
「・・・
まずはよく使われる塗料からだ。
模型系ではラッカーとエナメル、それから水性アクリルが主流だ。」

05:
「水性アクリルはトールペイントなどで使われるものと同じですよね」
師匠:
「まあ、そう考えていいな。すべてが同じとは言えないが、基本的には
同じようなものだ。水で薄めることができるが、水が蒸発すると水には
溶けなくなる。こういう塗料をアクリルエマルション系塗料という。
模型用ではタミヤのアクリル塗料がある。」

05:
「ふーん、でもこの塗料はプラスチックでは主流じゃないですよね。」
師匠:
「歴史的な経緯があるせいか、主流は今でもラッカーだ。
ラッカーの水性アクリルと異なるおおきな点は・・・」

05:
「有機溶剤を使うこと!」
師匠:
「そのとおり!溶媒(溶かしているもの)が異なっている。
そして使う有機溶剤は通常水よりも乾燥の早いものなので
素早い作業が可能だ。」

05:
「ほかに違いは?」
師匠:
「水性アクリルに比べて塗膜は硬く、強靱だ。
手で触っても落ちにくい。それから、メタリック系の塗料の
発色が良好だ。どうしても水性アクリルはメタリック感の
表現が苦手だ、以前に比べると良くなったようだが。」

05:
「ふーん、模型でメタリックは多用しますからね〜。
こんなところが水性アクリルが主流にならないところかも。
ラッカー系塗料ってどんなモノがあるのですか?」
師匠:
「最も一般に手に入りやすいのが、グンゼ産業の(ミスターカラー)だ。
ほとんどの模型屋に用意されているはずだ。色数も豊富だが、
模型用なので半つや消しが多く、きれいな色があまりない。」

05:
「それじゃ、エナメルは?」
師匠:
「おーっと、時間切れだ。これについては次回にしよう!」

05:
「またですか!」

(つづく)

第10回 「プラスチック塗装編2」

05:
「今回は許されませんよ、いいところで終わるのは!
前回はエナメル塗料とは?というところからでしたよ」
師匠:
「まあまあ、そう急かずに・・お茶でもどうかな。」

05:
「ブッブー、ダメです。終わってからにしなさい!」
師匠:
「・・・冗談なのに・・・。
私の調べたところではエナメル塗料はどうも塗料からきているのではないらしい」

05:
「塗料なのに塗料から来てない?意味が分かりませんよ」
師匠:
「一般的にいわれる塗料ではなく、どうも油絵具の系統に属するものらしい。
油絵具と一般的な溶剤型の塗料(ラッカー)は構成成分が異なっている。
油絵具は(油)というくらいなので溶剤型の塗料に近いのだが
<植物性乾性油>を使って、溶剤をあまり使わないという特徴がある。
 エナメル塗料はこれを元にプラスチック塗装に適する様に作られたものだろう。」

05:
「<植物性乾性油>?」
師匠:
「そう、よく使われるのは あまに油 なんかだな。
現在のエナメル塗料に何が使われているのかははっきり特定できなかったが・・。」

05:
「で、結局水を使えないということでラッカーとエナメルは近い様な気がしますよ。
使ったときに違いとかあるんですか?」
師匠:
「これが重要なポイントだ。まずは塗装の違い。
エナメルはラッカーよりも乾燥時間が長く、
筆塗りではムラになりにくいという長所がある。しかしながらこれは
ほこりがつきやすい、作業に時間がかかる、などの欠点となるのだ。
 また樹脂成分がラッカーに比べて比較的少ないのでメタリック系の
発色は抜群に高く、きれいな光輝感が得られる。しかしながら裏を返せば
その樹脂が少ないことから、触れると取れたり、発色が落ちたりしてしまう。
塗装面の取り扱いには注意を要するのだ。」

05:
「それ以外は?」
師匠:
「プラスチック塗装ではよく知られたことだが、
ラッカーの上にエナメルを塗装してもラッカーは侵されず
上にきちんと塗料が載るが、エナメルの上にラッカーを塗ると
下のエナメルが侵されて溶けてしまう。」

05:
「エナメルを下地には使えないってことですか。」
師匠:
「そんなことはないが、エナメルのシンナーでラッカー塗膜は溶けないが、
ラッカーのシンナーではエナメル塗膜は溶けてしまうので
そこのところを十分頭に入れておかないとひどいことになってしまう。
 しかしながら、この性質を利用して<汚し>や<影付け>などの
工程をエナメル塗料で行っている人は多い。もちろん下地にはラッカーを
使って、だ。」

05:
「ふーん。そういえば、市販のエナメルにはどんな物があるんです?」
師匠:
「これもプラモ用だが最も一般的なのは四角いビンのタミヤカラーだ。
それと外国のハンブロール。どちらも根強いファンがいる。」

05:
「そういう師匠は何を使っているのですか」
師匠:
「基本塗装はラッカー(ミスターカラー)で、細部は質感によって
ラッカーとエナメルを使い分ける。汚しにエナメルと水性アクリルを少々使う。」

05:
「性質が解るとその性質に従い使い分けが出来るってことですね」
師匠:
「そのとおり!」


(つづく)